中耳炎
耳を外側から見ていくと、耳たぶ、耳の穴のトンネル、鼓膜があります。
外から見ると、鼓膜で突き当たりとなりますが、鼓膜の内側にある部屋が中耳です。
中耳の中は、耳小骨という骨でできた立体構造などがありますが、基本的にほかは空気で空っぽです。
中耳が炎症を起こすと中耳炎となります。
中耳炎はいくつかのタイプがあります。その代表的なものに、急性中耳炎、滲出性中耳炎、真珠腫性中耳炎があります。
子供がなりやすい中耳炎は、急性中耳炎と、滲出性中耳炎の2つです。
急性中耳炎
急性中耳炎は、中耳の空間に膿がたまって充満し、炎症を起こすことによっておきます。耳掃除の時に綿棒でちょっと鼓膜をつついてもとても痛いのですが、その鼓膜を膿が中耳の中からぎゅうぎゅう押すので、子供はワンワン泣いて痛がります。
急性中耳炎の痛みは、痛いときはものすごく痛く、痛くないときはまったく痛みを感じません。
初めての中耳炎の時、夜などは、親御さんがびっくり仰天し、救急車を呼んで夜間救急外来に駆けつけたりしますが、病院に着いたときは痛みがなくなって子供はニコニコ、はしゃいだりします。
治療の基本は、抗生剤と痛み止めです。所見がひどいときは鼓膜切開をすると早く治ります。
最近、小児急性中耳炎の治療ガイドラインが完成し、どこの病院でも治療が平均化するようになりましたが、耳鼻咽喉科の専門医でしっかりと診察してもらうほうが安心です。
夜中にお子さんが耳が痛いと言い出したとき、とりあえず痛み止め(熱さましの薬でも同じです)を飲まして(座薬でも結構です)、朝になったら近所の耳鼻咽喉科の先生に診てもらいましょう。
滲出性中耳炎
滲出性中耳炎は、中耳の空間に、膿ではなく、浸出液という液体がたまって起こりますこの中耳炎は、痛くもかゆくもありません。
しかし、進行するとだんだん耳の聞こえが悪くなっていきます。
お子さんが呼びかけに対する返事が悪くなったり、聞き返しが多くなったり、テレビの音を大きくしたがったりする時は、検査が必要です。
滲出性中耳炎による難聴は、基本的に治る難聴で、しっかり治療をしていけば心配ありません。
滲出性中耳炎は、8歳から10歳くらいまでにほとんどの子が治ります。
しかし、2歳から5歳くらいまでの言語獲得期に聞こえが悪いと、言葉の遅れが心配になることがありますし、学童期に聞こえが悪いと、学校で先生の授業がよく聞こえなくなくて成績に影響したり、集中力散漫な性格になる可能性があります。
治療の基本は、耳鼻咽喉科での通院治療で、可能な年齢になれば鼻から中耳に空気を通す「通気」という治療が有効です。
治りにくい滲出性中耳炎に対しては、鼓膜切開をして中耳内の浸出液を吸い出したり、鼓膜に小さなビーズのようなチューブを入れっぱなしにする小手術を行う場合もあります。
鼓膜切開や、鼓膜チューブの挿入は、一般の耳鼻咽喉科クリニックでもできますが、小さなお子さんの場合は、耳の穴が狭く、また、動いてしまうととても危険なので、入院できる病院で全身麻酔をかけて行う場合もあります。チューブを入れる場合、途中で自然に脱落してしまう場合もありますが、2年間ほど入れっぱなしにするのが一般的です。
例えば、幼稚園の年長さんの時にチューブを入れる場合、
小学校2年生から3年生になる春頃、チューブを抜くことをお勧めしています。
これには3つ理由があります。
まず、春から夏にかけて、もともとの滲出性中耳炎はよくなりやすい季節なので、チューブを抜いた後に再発しにくいということ、次に、チューブを入れる期間が2年ほどになりますから、そこで抜いておいたほうが鼓膜の萎縮(ぺらぺらの薄い鼓膜になってしまうこと)のリスクが少ないこと、最後にチューブを抜いた後、ほとんどの鼓膜の穴は自然にふさがりますが、それが体育のプール(6月からが一般的ですね)に間に合うようにという配慮からです。
チューブが入っている間のプールですが、基本的には水に潜らなければ問題ありません。チューブに開いている穴は直径が1mm程で、水には表面張力という性質があり、その大きさの穴では水は通り抜け出来ません。それが潜水をした状態だと水圧がかかりますから、中耳の中に水が浸入してしまう可能性が出てきます。ちなみにシャンプーや石鹸は、界面活性作用といって、水の表面張力を下げる働きがあるのですが、そのことから、毎日の入浴、洗髪のほうがリスクがあるのですが、チューブが入っているお子さんで、お風呂に入るとしょっちゅう耳だれが出るという子は、まずいません。
チューブが入っている、いないにかかわらず、滲出性中耳炎のお子さんにスイミングはお勧めしません。
チューブから直接水が入る心配は(潜らずに水面で泳いでいれば)あまりありませんが、滲出性中耳炎の大きな原因である、鼻炎のコントロールが悪くなる可能性があるからです。スイミングは、親御さんからは人気のある習い事ですが、サッカー、野球、バレエ、体操など、ほかにも魅力のあるスポーツはたくさんあると思います。
急性中耳炎、滲出性中耳炎ともに鼻が悪いお子さんがなりやすい病気です。鼻の奥に中耳とつながる耳管と呼ばれる管があるのですが、そこから細菌が中耳に上がっていって急性中耳炎になったり、耳管が炎症を起こして滲出性中耳炎の原因になったりします。滲出性中耳炎では、鼻の奥のアデノイドという、扁桃腺の親戚であるリンパの組織が大きいと原因になりやすく、切除手術が必要な場合もありますが、やはり鼻風邪をきっかけに悪くなります。
中耳炎の治療では、鼻の治療とセットで行うのが効果的です。
特に小さいお子さんの場合は、耳鼻咽喉科でのまめな鼻の治療をお勧めします。
真珠腫性中耳炎
真珠腫性中耳炎とは、真珠というちょっとロマンチックな名前がついていますが、中耳炎の中でもっとも厄介なもののひとつで、多くの場合手術が必要となります。
真珠腫が厄介なのは、その真珠の塊が、中耳の中で周りの骨などを破壊しながら、だんだん大きく成長していくということです。耳の奥は狭い中に、聞こえの神経のセンサーの部分や、三半規管という平衡感覚をつかさどる精密な器官があり、そこが破壊されると大変です。また、脳にもとても近く、骨の破壊が上のほうに進むと髄膜炎や脳膿瘍といった、命にかかわる病気を引き起こす恐れもあります。
原因は、きちんとした治療がされていない滲出性中耳炎のなれの果ての場合と、生まれつき真珠腫の卵が耳の中にあり、それが育ってしまう場合があります。
真珠腫性中耳炎の症状は、いろいろバラエティに富んでいますが、時々耳だれが出る慢性中耳炎をほっておいた場合や、経過の悪い滲出性中耳炎から起こる場合や、めまいや突然の難聴で気づかれる場合もあります。
検査は中耳のCTスキャンが必要です。性能のいいCTの器械を持った病院での検査がいいでしょう。
治療は、多くの場合、手術が必要になります。手術は2週間程度の入院と、20万円以上の費用がかかります。
真珠腫性中耳炎の手術は、耳鼻咽喉科の手術の中でもかなり高度なテクニックが必要で、上手な先生のいる病院を選ぶべきです。
当院では、信頼の出来るいくつかの病院を提案し、その中からご希望の病院を紹介しています。